先日テレビCMでうがい薬「イソジン」の映像が流れていた。
11月に入りそろそろ寒くなってきたことから、風邪の予防が必要と思われるこの時期は毎年イソジンのCMを見る機会が必然的に多いが、そこで違和感に気が付いた。
映像はいつものカバが出てきて、流れる音楽もお馴染みの「♪ただーいまーのあとは~」なのだが、歌詞が何か違う。「ガラガラジンジン」のパートが「ガラガラして」に変わっている上に、商品名も……健栄うがい薬!?
まてまてまて、イソジンじゃないんかい!
まてまてまて、明治製菓じゃないんかーい!
イソジンうがい薬に何が起こったのかよく分からなくなってしまい、状況を確認するため以前カゼをひいた時に病院で処方されたイソジンのパッケージを見たところ「塩野義製薬」と「ムンディファーマ」の表記が……おいおい、今度は健栄製薬の表記が無いぞ?

これは一体どうしたものかと疑問に思い、イソジン事情について調査してみたところ、ここ数年でイソジンを取り巻く状況が大きく変わっていた事が分かったので、今回はイソジン事情と変遷について紹介しよう。
イソジンの現状を超ざっくりに言うと、紆余曲折を経てイソジンうがい薬は現在2つに分かれており2025年現在、健栄製薬の「健栄うがい薬」とシオノギヘルスケア(塩野義製薬)の「イソジンうがい薬」が販売されている。

なぜこんなことになったのか更に調べてみたところ、ここに至るまでの経緯がいろいろあったため、ここからはじっくりと説明しようと思う。
あわせて、間違えやすいポイントや勘違いしていた事もあったので、これはおそらく引っかけ問題としてテストに出ると思われるので後学のために記しておく。
(「何のテストに出るんじゃい!」という野暮なツッコミは無しで)
【財津一郎】長年ずっと変わらなかったタケモトピアノのCMが新しく変わった件【ピアノ売ってちょうだい】
■イソジンの変遷(明治製菓編)
そもそも、イソジンは明治製菓ブランドの商品ではない。まずここが抑えておきたい重要なポイントだ。
イソジンブランドは先ほどの処方薬にも記載されていた「ムンディファーマ」という海外の会社が商標権を持っている商品で、明治製菓がムンディとライセンス契約して「イソジンうがい薬」として長年にわたって製造販売していたものだ。
ポピドンヨードのうがい薬「イソジン」は、1961年に明治製菓がムンディファーマとライセンス契約して製造していたもので、あの「♪ただーいまーのあとはガラガラジンジン~」の歌でカバのキャラクター「カバくん」の出演するCMが流れていた。
そんな長きにわたって結ばれたムンディファーマと明治製菓とのライセンス契約は、2016年3月に明治がムンディファーマとの契約更新を行わなかったため、イソジンブランドのうがい薬の販売が出来なくなってしまった。
なお、ライセンス契約の話より少し遡って、2009年に明治グループの再編が行われて明治製菓と明治乳業は「明治ホールディングス株式会社」の持ち株会社へ移行した。
さらに2011年には医薬品事業は「明治製菓ファルマ」となり、2016年3月までは明治製菓ファルマからイソジンが製造販売されていた。
しかし、イソジンブランドの販売が出来ない明治製菓ファルマだが、カバくんと例の歌(♪ただーいまーのあとは~)の権利は明治製菓ファルマが所有していたため、ムンディファーマのライセンス切れ後は「明治うがい薬」として宣伝販売していた。
★「イソジンうがい薬」から「明治うがい薬」に変わった時のCM(3:26-)
さらに2022年11月には、明治製菓ファルマが健栄製薬に「明治うがい薬」とカバくんのキャラクター、CMソングの権利を譲渡した為、2025年現在は「健栄うがい薬」として販売される事となり、コマーシャルソングもカバくんのあの歌となった。
もともと、健栄製薬はイソジン時代から長年にわたって明治製菓からうがい薬を受託生産をしていた会社のため、製造技術はそのままで品質などについては問題無しだ。

おそらくあの歌とカバのCMなのに商品名がイソジンじゃないという違和感も、いずれ慣れてくるのではないかと思われる。
今の子供は「ドラえもんの声=水田わさび」という認識となっているように、我々のような大山のぶ代原理主義の過激派はいずれ淘汰されていくようなものだろう。
つまり、先日見たカバくんのうがい薬のCMは健栄薬品の商品だが、明治製菓イソジンの流れを組むうがい薬の現在形ということだ。

★参考映像(健栄うがい薬)
■イソジンの変遷(塩野義製薬編)
2016年3月に明治製菓ファルマがイソジンのライセンス更新を行わなかったため、このままイソジンが無くなってしまうのかと思いきや、2016年4月から塩野義製薬がムンディファーマとライセンス契約を結び、イソジンが途切れることなく販売される事となった。
そして前述の通り、カバくんとあの歌は明治製菓ファルマが権利を所有している為、イソジンという商品を販売しているものの、パッケージは犬のキャラクターが描かれているものとなってしまった。

あの歌もキャラクターも使えない事情から、コマーシャルもオリジナルの物を使用する事となり、いまいちイソジン感の薄いコマーシャルで現在に至るという状況だ。
さらにややこしいことに、2024年にムンディファーマの大衆向け市販薬事業(コンシューマヘルスケア事業)がアイノヴァファーマー(iNova Pharmaceuticals)に売却されたため、イソジンブランドもアイノヴァに移行した。
そのため、2025年現在店頭で販売されているイソジンは、製造販売がアイノヴァ、販売が塩野義製薬という流れだ。

(2025年現在)
■明治製薬?明治薬品?
ここからは少し蛇足になるが、以前から気になっていたので紹介しておこう。
イソジンについて調べていた時に「明治製薬」と「明治薬品」というキーワードを用いて調べていたが、どこにもイソジンに関する情報が無いため、会社について調べてみたところ、なんと明治製薬、明治薬品はいずれも明治製菓とは一切関連のない会社だという事がわかった。
・明治製薬
・明治薬品
なお、明治製薬ホームページのトップにも「め、明治製薬と明治薬品は同業他社で、ぜっ全然関係ないんだからねっっ///(意訳)」の文言が記されているほどで、間違えている人も多いようだ。

以前、三菱鉛筆が三菱グループとは無関係という事実を知った時の如く、思わず「関係無いんかーい!」とセルフツッコミを入れてしまう程だが、ここは間違えないように気を付けよう!
普段愛用している名作ボールペン「ジェットストリーム」が三菱鉛筆の商品で、「さすが三菱グループの技術力だよ!」と勘違いしていた恥ずかしい過去がありまして……///

(ジェットストリーム)
なお、韓国の俳優「イ・ソジン」さんもイソジンとは全く関係ないのであしからず。
★参考用イ・ソジンさん
■イソジンの歴史まとめ
これまでのイソジンうがい薬の流れを以下の通り時系列順にまとめてみた。
1961-2016 ムンディファーマのイソジンを
明治製菓がライセンス販売
(2016.3 ライセンス切れ)
2016.4 明治製菓ファルマ:イソジンの
ライセンス更新せず。
「明治うがい薬」で販売、カバ
くんCMとCMソングは続投
ムンディファーマ:塩野義製薬
ライセンスで「イソジン」を販売
キャラクターは犬
2022.11 明治製菓ファルマから
健栄製薬へうがい薬の
事業譲渡
・明治うがい薬の製造→「健栄うがい薬」
・うがい薬CMソングの独占使用権
・カバくんは健栄うがい薬でも使用
2024 ムンディファーマの市販薬
部門(イソジン含む)が
アイノヴァファーマーに売却
2025現在 イソジンの製造販売:アイノヴァ
販売:塩野義製薬
■最後に
今回はイソジンについて調べてみたが、これはなかなか壮大な歴史だった。
とにかく自分の知識、手元にある処方薬のイソジンの表記、現在の状況と全てが一致しないため、最初から歴史を遡って擦り合わせて時系列に整理して初めて現在のイソジンの流れが理解できるという流れというややこしい流れだ。
そんなワケでざっくりまとめると、ポピドンヨードのうがい薬「イソジン」の流れを汲んだ商品は現在2つ存在し、「イソジン」と「健栄うがい薬」が市販されている。
現在のイソジンブランド商品は塩野義製薬が販売していて、かつてイソジンを販売していた明治製菓は、イソジンの看板以外の商品とカバくん等の知的財産を健栄製薬に売却したという流れで今に至るということだ。
もし、イソジンの状況が気になっている人がいてこの記事を読んでくれる人がいれば幸いだ。

これから更に寒くなり、風邪やインフルエンザなどの病気が流行する時期となるため、この記事を最後まで読んでくれてた奇特な……あわわ、知的好奇心が旺盛な皆様もうがい薬(イソジンor健栄)で喉をいたわって、元気に冬を乗り切ろう!


